こんにちは!さこまよ(@Sacchan_OT7)です。
よくBTSのオタクをやっていると「何でBTSはそんなに人気なの?」ということを聞かれます。
理由は、BTSやBTSの作る楽曲そのもののに魅力があるから、という点はもちろんですが、今回は、マネージメント側=HYBE(旧Bighit Entertainment)の手法、BTSの売り出し方という観点から、ARMY(BTSのファンダム)の渦中にいて、感想と見解を交えながら、BTSの成功の理由について考察してみたいと思います。
※BTSそのものの魅力については、以下の記事をご参照ください。
私は、BTSの成功の理由には2つの柱があると思っています。
一つは、HYBEのストーリー作りの上手さです。
また、作り出したストーリーを、様々なメディアで打ち出していく、トランスメディアの手法により、「エンターテインメントの境界をなくす」ことを強く意識していることも大きな成功の要因であると思います。
もう一つは、ファンとの交流を通じて、ファンのニーズを正確に把握していることも大きな強みであると言えます。
この2点について、詳しく書いていきます。
HYBEのストーリー作りとトランスメディアの手法
先日、HYBEが投資家に向けたブリーフィングをYoutubeで公開しました。
そこではHYBEの創始者・代表取締役会長でありBTSを育てたプロデューサーであるパン・シヒョク氏をはじめ、最近CEOに就任したパク・チウォン氏らがしきりに「境界をなくす」ということを語っていました。
さらに、「HYBEがこれまで培ってきたストーリー作り」に今後もさらに力を入れていく、という内容が重点的に語られました。
先日HYBEが買収したイタカ・ホールディングスのスクーター・ブラウン氏も、今後ハイブ・アメリカもオリジナルストーリー作りを進めていくと話していました。
また、このブリーフィングでは、今後BTSをはじめとするアーティストによるストーリー性をもったコンテンツの新たなリリースの発表がされました。
BTSはCHAKHOという小説及びゲームの展開が告知されましたね。
CHAKHOについては概要が分かり次第、解説していきたいと思います。
7Fates: CHAKHO with BTS#BTS #방탄소년단#7Fates_CHAKHO #7Fates_CHAKHO_HYBE pic.twitter.com/kyBsxKOyRr
— 7Fates: CHAKHO by HYBE (@7Fates_CHAKHO) November 4, 2021
HYBEが作ってきたストーリーとは
HYBE(旧Bighit Entartainment)が作ってきて成功を収めたストーリーと言えば、言わずもがな、「花様年華」(英名:Bangtan Universe:BU)ですね。
花様年華の詳細については上の記事をご覧いただければと思いますが、簡単に言うと、架空のオリジナルストーリーに沿って、BTSの7人のメンバーそれぞれに架空の配役が与えられ、彼らが次々にリリースするミュージックビデオや短編ショートムービーの中で、その役を演じることで「花様年華」のオリジナルストーリーが長い時間をかけて展開していく、というものです。
花様年華のストーリーは、ミュージックビデオでは2015年から少なくとも2018年頃、大きな括りで見れば2020年頃まで続いてました。
(2021年4月に日本でリリースされたFilm OutのMVでは花様年華が続いているようにも見えたのでまだ続いているという説もあります。)
しかし、一回ミュージックビデオを見ただけの人には、このストーリーの存在に気が付くことができません。
すなわち、BTSのファンではない、もしくは好きだけどそこまで詳しくはない、といった浅瀬にいるファンでも、純粋にBTSのミュージックビデオや音楽を楽しむことができるように作られています。
2015年からずっと遡って追っていなくても、そのコンテンツは楽しむことができます。
逆に言えば、花様年華のストーリーを知っていて、ずっと追ってきているファンにしか分からないような、さりげない仕掛けがたくさん隠されているので、そうしたヒントを見つける楽しさが、古参のファンにとってはたまらない宝探しのように思えるのです。
また、途中でこのストーリーに気づいたり、知った人たちは、裏でそんなに壮大な物語が展開していた事実に驚き、そこから深くBTSのファンになっていくことも多いのです。(私もその一人です!)
「トランスメディア」の手法でコンテンツの境界を越えてストーリーが展開
花様年華のオリジナルストーリーは、いかようにも解釈の余地のある謎めいたストーリーとなっており、そのストーリーはミュージックビデオや短編ムービーの他、小説やゲーム、漫画の世界にまで広がり、様々な媒体から花様年華の物語を理解するヒントが出されました。
BTSのカムバック(新曲・新アルバムリリースのこと)のタイミングでは、花様年華のストーリーにも登場する花屋の架空のSNSアカウントが何の説明もなく、ある日突然登場し、ファンたちが騒然としたこともありました。
こうして、音楽だけでなく、小説、漫画、ゲームなど、その世界観がメディアの形態を超えて繋がっていく、広がっていく手法を「トランスメディア」と呼びますが、ミュージックビデオだけではなく、色々な媒体を通じて奥深く広がっていくその物語をまさに「体験」することでより深くその世界観にハマってしまうのです。
なお、そうした物語を理解するためのヒントは、ユング心理学やギリシャ神話、文学作品などについての造詣が深くなければ気づけないようなものであることが多く、ストーリーの奥深さに更に知的好奇心を刺激されるため、BTSのファンの中には大学教授など、インテリ層が多いことも特徴です。
また、BTSのファンは実に年齢層が幅広いことでも知られています。
ファンたちは、そうしたトランスメディアで様々な媒体に広がった物語を熱心に読み解き、ヒントを集め、BTSの新しい楽曲や謎めいたミュージックビデオが出るたびに「ここではこういうメッセージが隠されているのではないか」「こういったストーリーが展開していくのではないか」などと様々な考察を展開し、それらをSNS上でシェアしあうようになりました。
そのため、新しいコンテンツが公開されるやいなや、Twitter上では世界中のARMY(BTSのファン)たちが考察をはじめ、それぞれの推理を共有し合い、「通説」をまとめたり、新たな「新説」を出したARMYのツイートに数万のイイネがつけられたり、ARMYの生息地はほぼ全員がTwitter上にあると言っても過言ではないほど、加熱していきました。
なお、この花様年華のストーリーは架空のものではありますが、そのストーリーは、少年から大人へ成長する上での苦悩をテーマに描くことから、裏でBTSのメンバーそのもののアイドル(アーティスト)としての成長のストーリーとも重なるように作られている点で、とても秀逸です。
ファンたちは彼らの普段のコンサートやVLIVE放送、バラエティー番組などにおける発言と、この花様年華のストーリーそのものを結び付けて捉えることもしばしばありました。
少年から大人になる過程で、誰もが感じたことのある成長の痛みを描く架空のストーリーと、BTSという、田舎から出てきて、最初は中々売れず、周囲から叩かれ続けたにも関わらず、アーティストとして成功していくストーリーそのものが上手く重なり、応援しているファンからすると、感情移入せずにはいられないような仕組みになっている点がとても特徴的です。
エンターテインメントの境界をなくす
このオリジナルストーリーの成功については、先述したブリーフィングで、パン・シヒョク氏らも高く評価しており、「アーティストとアーティストの創作物をより豊かにし、より生命力と拡張性のあるものにしていった」、「HYBEは物語とキャラクターがいるこの「固有のストーリー」を通じて多様な形で音楽とアーティストの間の連結性を付与し、皆さんが夢中になれるコンテンツを作ってきた」と自負していました。
また、ストーリーが持つ無限の力と楽しさ、そして価値について、より大きな確信を持つようになった、とも語り、今後も、アーティストと音楽、そしてコンテンツ間のシナジーを作りながら、境界を越えて多様な形で、「コラボレーション」を繰り広げる予定であると明かされました。
このように、コンテンツ間の境界をなくし、音楽アーティストだから音楽だけでメッセージを伝える、ということに留まらず、小説やゲーム、漫画の世界にまでボーダーレスに進出することで、様々な媒体でメッセージを伝えていくという戦術が、まさにHYBEの成功の手法であると言えます。
すなわち、物理CDが売れなくなってきているこの時代、ストリーミングやYoutube配信などが主流になっていますが、ここにはどうしても、海賊版の出現や違法アップロードの問題が付きまといます。
音楽というコンテンツだけではどうしても儲からないため、何とかしてCDに特典を付けて売るという手法や、グッズを製作して売るという手法が取られがちですが、HYBEはそれだけではなく、多様なコンテンツに事業を展開することで、さらなる成長の活路を見出してきたのです。
ファンとのコミュニケーションプラットフォームとSNS戦略
HYBEの成功は、オリジナルストーリーの他に、ファンとのコミュニケーションが鍵であると冒頭で述べました。
それは主に2つの観点で語られると思います。
一つは、HYBEが現在力を入れているファンとのコミュニケーションプラットフォームであるWeverseです。
そして、もう一つは主にTwitter上などで拡散される「著作権黙認」とも言える無料コンテンツを用いたSNS戦略です。
ファンとのコミュニケーションプラットフォーム「Weverse」
Weverseとは、HYBEが自前で展開する、オンライン上でアーティストとファンのコミュニケーションを可能にするプラットフォームです。
当初はBTSとTomorrow X Together(BTSの弟分)など、HYBE傘下のアーティストのみの小規模なプラットフォームでしたが、現在はユニバーサルミュージックグループとの提携により、ユニバーサルミュージック傘下のアーティストや、出資したYGのアーティストなど、多くのアーティストによって利用されています。
さらに、それまでBTSをはじめKPOPアーティストがよく利用していたファンとのオンライン交流を可能にするNAVERが運営する「VLIVE」と統合したことで、その基盤をさらに確固たるものにし、急拡大しています。
Weverseでは、アーティストからのメッセージや動画(有料、無料コンテンツあり)が配信されるだけでなく、ファン同士の交流プラットフォームや、そうしたファンの交流の場にアーティスト本人がコメントを残すこともできる、双方向の交流が可能になっています。
時々、Weverseを通じてファンに向けたアンケートが行われ、アンケート結果に基づいたコンテンツが作られたり、コンサートの曲選定が行われていることも話題です。
なお、VLIVEは、主にアーティストがリアルタイムライブ配信を行ってファンと交流したりする場ですが、Weverseと統合されることで、こうした交流機能もWeverseに一本化される可能性もあります。
HYBEがWeverseに力を入れる理由は、まさに、こうして直接、自前のシステムを利用してファンとのコミュニケーションプラットフォームを構築することで、ファンの購買行動を直接把握できることが大きな理由であると見られています。
通常、音楽レーベルは、こうしたファンとの交流プラットフォームは他者の運営するプラットフォームを利用していることが多いため、マージンを取られるだけでなく、データの取得に関しても思うようなものが得られにくいというデメリットがあります。
HYBEはこうした課題を克服していると言えます。
さらに、このWeverseには、付属のEコマースである「Weverse Shop」があります。
現在、BTSをはじめとするほぼ全てのHYBEアーティストのグッズやコンテンツがWeverse Shopにて販売されています。
この点でも、コンテンツからグッズ販売へのスムーズな誘導、購買行動データの取得がマージンを取られることなく全て自前で設定できることが強みであると言えます。
SNS戦略と「著作権黙認」
先ほど、HYBEが展開してきたオリジナルストーリー「花様年華」の考察がSNS上(主にTwitter)で展開されると述べましたが、TwitterはARMYの重要なプラットフォームの一つです。
ARMYになる前はもっぱらインスタ派であったり、TikTok派であった人も、たちまち一日のうちのほとんどの時間をTwitterに費やすようになります。
それは、多くの動画や画像などのコンテンツが公式から展開されますが、そうしたコンテンツをいち早く見て、いち早くそのメッセージを理解したいというファンたちが、情報の速度と、拡散性の高いTwitterに集まるためです。
また、拡散する側も、Twitterを利用して独自の見解や、BTSに関するニュース(カムバック情報や出演情報など)を拡散することがもっぱら多いからです。
さらに、BTSは本国での人気以上に、日本や欧米をはじめとする世界での人気が顕著ですが、韓国語で投稿されたコンテンツを即時に翻訳するファンたちが一定数おり、TwitterやYoutubeで字幕や翻訳を付けて拡散することがARMY文化の一つとなっています。
こうして、公式から投稿されたコンテンツをファンが編集し、字幕を付け、SNS上で投稿することで、より多くの潜在的なファンにまでコンテンツが容易に到達し、さらにファンを増やす、という仕組みが定着しています。
BTSの最強のプロモーターはARMYである、とよく言われますが、まさにその通りで、こうしたファンたちの活動が、BTSの人気を世界に広げた直接的な要因であると言えます。
なお、本来であれば、公式が投稿するコンテンツには無料であっても有料であっても、著作権が存在するため、こうしたファンによる二次創作や二次的投稿は著作権違反となります。
しかし、著作権は親告罪であるため、著作権者が通報しない限り、罪が成立することはありません。
そして、HYBEは、多くの無料コンテンツに対してはほとんど黙認の姿勢を貫いています。
有料コンテンツや音楽ファイルなどにはたまにメスが入ることもありますが、日本のジャニーズなどの著作権の厳しさからすると、考えられないくらいの寛容さであると思います。
※著作権については以下をご参照ください。
こうしたHYBEの寛容性と、ファンたちの二次創作や二次的投稿により、HYBEの製作した花様年華のストーリーの解釈や、一糸乱れぬレベルの高いBTSのパフォーマンスが動画や画像付きで拡散されることで、ファンに視覚的に訴え、公式のプラットフォームだけではリーチできなかった潜在的なファン層にまで届き、さらにファンを拡大させるという仕組みが出来上がっていると言えます。
個人的に印象的だったのが、RUN!BTSというオンライン配信限定のオリジナルバラエティで、こうしたファンたちが作った二次的投稿をメンバー自らがインターネットで検索し、自分たちに関するクイズに答える、という企画です。
メンバーのテヒョンに至っては、過去に放送された動画コンテンツを違法アップロードされたYoutubeで視聴してクイズに答えていた場面もあり、個人的に微笑ましく、笑ってしまいました。
公式側も、メンバーも、著作権侵害の黙認を肯定したと言える瞬間であり、それを番組にまでしてしまう点に、驚いたとともに、さすがだな、と思いました。
ファンが最強のプロモーター
先ほどまで述べた通り、公式が投稿したコンテンツを、さらに拡張し、細かく解釈し、更なるストーリーの肉付けを行い、公式がリーチできない層にまで拡散した主体、それがまさにARMYたちでした。
BTSがアメリカに進出するにあたって欠かせないラジオ放送枠の獲得のため、直接ラジオDJにデモテープを送って営業し続けたARMYの話などが有名ですが、こうしたファンたちのSNSを通じた繋がりが大きなうねりを生むことが多々あります。
BTSのメンバーがドイツのラジオDJによる人種的差別的発言を受けた際は、ARMYたちが連携して直接本人やラジオ局に抗議を行い、DJ本人からの謝罪と番組からの降板に至ったことは記憶に新しいです。
We are bullet proof : the Eternal は、「We are not seven, with you」という歌詞があるとおり、成功するまで支えたファン、攻撃や批判を受けてもついてきてくれたファン、BTSをここまで大きくし、プロモートしてくれたファンを、ともに戦ってきた8人目のメンバーとして位置付ける彼らの思いが見えます。
また、BTSが2021年5月にリリースした「Butter」の歌詞には「Got ARMY right behind us」という歌詞があります。
Butterでは、ここまで彼らを押し上げてくれたファンに対する感謝を表すとともに、ここまで一緒に拡大してきたBTSとARMYの関係性が、この歌詞の背景にあります。
HYBEの作り出すストーリーに重なるようにして、アーティストとして成長するメンバーを共に応援し、ファンダムとしても、ともに成長してきたARMY。
多様な国籍からなるARMYは時折内紛を起こすこともありますが、話し合いで解決してきた歴史もあります。(原爆Tシャツ問題の際の「White Paper Project」など)
この不思議な共同体には他にはない起爆力とパワーを感じます。
BTSそのものの魅力が大きいからではありますが、HYBEはこうしたファンの大きなうねりを生み、活用してきた、そういった点が大きな強みであると考えます。
最後にBTSとARMYの関係を良く表している大統領キムナムジュン(BTSリーダーRM)の演説をご紹介して、締めくくりたいと思います。
190506 ローズボウル ナムジュン エンディングメント
字幕をつけました🙏🏻
今までアルバム名とか歌詞から取ったSchool、Wings、花様年華、宇宙とかをスピーチに入れてるあたりがもう…
心を動かされるスピーチだった…
ナムさんありがとう😭💜 pic.twitter.com/oP3YZkdmce— SH⁷ (@BTSHtogether) May 6, 2019
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